月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第4章 夜の蝶
もしかしたら、香花とならば、もう一度、人生をやり直せるかもしれない。いや、彼女と同じ屋根の下に暮らし始めてまだふた月にもならないが、もうずっと昔から一緒に暮らしていたような気がしてならない。
彼女が来てからというもの、屋敷の中の雰囲気が変わった。重たく沈んでいた空気が生き生きと甦り、子どもたちの笑い声がよく響くようになった。それは、淀んでいた部屋に真新しい風が吹き込んできたかのようであった。
明善自身は香花に強く惹かれていた。叶うならば、あの少女と新しい人生を歩んでいきたいと思う。だが、明善にはまだ、やり遂げなければならないことがあった。復讐を諦め、香花と二人で新しい道を歩む方が恐らくは、はるかに健全で正しいのだろう。
だが、明善にはどうしても途中で止められない。
私の―、私のために死なせてしまった春(チユン)華(ファ)のためにも。
明善は強く強く拳を握りしめる。
あの日の屈辱と哀しみを思い起こす度に、彼は声を上げて叫び出したい衝動に駆られるのだ。
四年前、相成の屋敷から遣わされた迎えの輿に乗ったときの妻の表情を。すべてを諦めたかのように澄んだ瞳には哀しみの涙が滲んでいた。自分はあの瞬間、春華を相成に売ったのだ。ただ自分の保身を図る、それだけのために。
明善が物想いから我に返った時、既に香花と子どもたちの姿は庭になかった。
久しぶりの雨で、萎れがちだった紫陽花も生き返ったように甦った。海色に染め上げられた紫陽花が殺風景な庭を見事に飾っている。
明善は溜息をついて、そっと扉を閉める。
何より、自分のような男は香花にはふさわしくない。
彼女が来てからというもの、屋敷の中の雰囲気が変わった。重たく沈んでいた空気が生き生きと甦り、子どもたちの笑い声がよく響くようになった。それは、淀んでいた部屋に真新しい風が吹き込んできたかのようであった。
明善自身は香花に強く惹かれていた。叶うならば、あの少女と新しい人生を歩んでいきたいと思う。だが、明善にはまだ、やり遂げなければならないことがあった。復讐を諦め、香花と二人で新しい道を歩む方が恐らくは、はるかに健全で正しいのだろう。
だが、明善にはどうしても途中で止められない。
私の―、私のために死なせてしまった春(チユン)華(ファ)のためにも。
明善は強く強く拳を握りしめる。
あの日の屈辱と哀しみを思い起こす度に、彼は声を上げて叫び出したい衝動に駆られるのだ。
四年前、相成の屋敷から遣わされた迎えの輿に乗ったときの妻の表情を。すべてを諦めたかのように澄んだ瞳には哀しみの涙が滲んでいた。自分はあの瞬間、春華を相成に売ったのだ。ただ自分の保身を図る、それだけのために。
明善が物想いから我に返った時、既に香花と子どもたちの姿は庭になかった。
久しぶりの雨で、萎れがちだった紫陽花も生き返ったように甦った。海色に染め上げられた紫陽花が殺風景な庭を見事に飾っている。
明善は溜息をついて、そっと扉を閉める。
何より、自分のような男は香花にはふさわしくない。