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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第4章 夜の蝶

 自分は他人が思っているような情け深い男ではない。自分の身を守るためには平然と妻ですら見殺しにする冷徹な男なのだ。
 香花は聡明で、心優しい娘だ。彼女であれば、何も自分のような暗い過去を持つ男でなく、一点の翳りもない前途有望な若者がいつか現れるだろう。そのような男こそ、香花にはふわさしい。
 香花を心から愛おしいと思うからこそ、明善は敢えて彼女の想いを受け取らないつもりだった。
 もう、愛する女を哀しませ、不幸にするのは金輪際ご免だ。
 明善は座椅子に座り込み、かなり長い間、物想いに耽った。

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