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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

「お前と子どもは俺の宝だ。これからは三人で幸せになろう。―俺はずっと物心ついた頃から、家族というものに憧れていた。やっと、俺にも家族ができたんだな」
 香花はハッとした。
 改めて精悍な横顔を見つめると、頬を流れ落ちる涙があった。
「光王」
 遠慮がちに呼びかけると、光王の唇がニと唇を笑みの形を象る。
「なーんてな。こういうしんみりしたのは、あまり俺の趣味じゃねえな」
「もう! 光王ってば。また、からかったの?」
 抗議の声を上げる香花には頓着せず、光王は机に戻って再び書物をめくり始めた。
「もう知らないから」
 香花はぷりぷりと怒りながら、また窓辺から丸々とした月を見上げる。

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