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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

 真悦の脚音が遠ざかってゆく。
「光王、お義父上さまのいらっしゃるところで、あんなこと止め―」
 言いかけた香花に、光王が明るい笑みを見せた。
「さあ、ごたごた言ってないで、早く行こうぜ。父上と義母上が待ってる」
 最後の科白にハッとし、香花はそれから極上の笑みを浮かべ頷いた。
「そうね」
 見つめ合い、微笑み合う二人を、月が優しく照らしている。月明かりを浴びた桜の花が、きらめく珊瑚のように宵闇の中で淡く発光していた。
 春、三月半ば。
 ここ都漢陽にも本格的な春が訪れたようである。

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