
花鬼(はなおに)~風の墓標~
第9章 夜明け―永遠へ―
「ごめんなさい」
熊がもう一度頭を下げて背を向けようとしたその時、熊は背後から伝次郎に抱きしめられた。
「熊どの。もし、俺が熊どのと一緒に行かないと言うたら、熊どのはどうするつもりだったんだ?」
熊はその言葉に涙が溢れた。小さく息を吸い込んで自らを落ち着かせて、ありったけの自制心をかき集めた。
「お屋形さまのおん許に上がります」
―泣いては駄目、伝次郎さまの前で泣いては駄目。
熊は懸命に言い聞かせた。
たったいっときの自分に対する同情から伝次郎のこれからの一生を狂わせてはならない。ただ一瞬でも良い、確かにこの一刻(ひととき)、熊は心から惚れた男の腕の中にいられた―、それだけで十分幸せだったと思える。
「嘘だ」
伝次郎の強い声で熊は現実に引き戻された。
「熊どの、俺の顔を見るんだ」
熊は伝次郎に言われ、振り向いた。少しの嘘でも見逃さぬとでもいうかのように、伝次郎の眼が熊を射貫くように見つめている。
「熊どのはお屋形さまの許には行かぬ、死ぬつもりだ」
熊がハッとして、息を呑んだ。
熊がもう一度頭を下げて背を向けようとしたその時、熊は背後から伝次郎に抱きしめられた。
「熊どの。もし、俺が熊どのと一緒に行かないと言うたら、熊どのはどうするつもりだったんだ?」
熊はその言葉に涙が溢れた。小さく息を吸い込んで自らを落ち着かせて、ありったけの自制心をかき集めた。
「お屋形さまのおん許に上がります」
―泣いては駄目、伝次郎さまの前で泣いては駄目。
熊は懸命に言い聞かせた。
たったいっときの自分に対する同情から伝次郎のこれからの一生を狂わせてはならない。ただ一瞬でも良い、確かにこの一刻(ひととき)、熊は心から惚れた男の腕の中にいられた―、それだけで十分幸せだったと思える。
「嘘だ」
伝次郎の強い声で熊は現実に引き戻された。
「熊どの、俺の顔を見るんだ」
熊は伝次郎に言われ、振り向いた。少しの嘘でも見逃さぬとでもいうかのように、伝次郎の眼が熊を射貫くように見つめている。
「熊どのはお屋形さまの許には行かぬ、死ぬつもりだ」
熊がハッとして、息を呑んだ。
