
花鬼(はなおに)~風の墓標~
第9章 夜明け―永遠へ―
「熊どの、そうだろう? 熊どのはお屋形さまの側室になるよりは死を選ぶつもりなんだ」
熊が咄嗟に視線を逸らそうとする。そんな熊を伝次郎は強引に自分の方に向かせた。
「嘘をついても判る。熊どのは死ぬつもりだ」
伝次郎は繰り返した。熊の眼に大粒の涙が溢れ、白い頬をつたい落ちた。
「私はあなた以外の男(ひと)はいや! 信虎さまに触れられるくらいなら、死にます」
その瞬間、熊は再び強い力で抱きしめられた。
「死ぬな」
伝次郎の吐息混じりの声が耳許で囁いた。
「死ぬな、俺は熊どのを死なせたりしない」
熊が弾かれたように顔を上げたその瞬間、伝次郎と熊の視線が月明かりに照らされた淡い闇の中で熱く絡み合った。
「―本当に俺で良いのか?」
伝次郎がいかにも自信なさそうに小さな声で言った。
「伝次郎さまこそこんな形で靖政さまのところを出奔するようなことになっても良いのですか?」
熊が控えめに訊ねると、伝次郎は笑った。
「俺は何しろこの面体だろう? 今までろくに女にもてたことがないのに、いきなり天女さまのような女(ひと)に好きだなんて言われて、自分でも信じられないんだ」
熊が咄嗟に視線を逸らそうとする。そんな熊を伝次郎は強引に自分の方に向かせた。
「嘘をついても判る。熊どのは死ぬつもりだ」
伝次郎は繰り返した。熊の眼に大粒の涙が溢れ、白い頬をつたい落ちた。
「私はあなた以外の男(ひと)はいや! 信虎さまに触れられるくらいなら、死にます」
その瞬間、熊は再び強い力で抱きしめられた。
「死ぬな」
伝次郎の吐息混じりの声が耳許で囁いた。
「死ぬな、俺は熊どのを死なせたりしない」
熊が弾かれたように顔を上げたその瞬間、伝次郎と熊の視線が月明かりに照らされた淡い闇の中で熱く絡み合った。
「―本当に俺で良いのか?」
伝次郎がいかにも自信なさそうに小さな声で言った。
「伝次郎さまこそこんな形で靖政さまのところを出奔するようなことになっても良いのですか?」
熊が控えめに訊ねると、伝次郎は笑った。
「俺は何しろこの面体だろう? 今までろくに女にもてたことがないのに、いきなり天女さまのような女(ひと)に好きだなんて言われて、自分でも信じられないんだ」
