花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
絢が太吉を見ていると、太吉が困ったような表情になった。
「何だ、そんな泣きそうな顔して。大丈夫だ、できるだけ早く夕方までには帰ってくるから。米もいつもよりは多めに持って帰るつもりだから、これでまたしばらくは町に行かねえで済むだろうよ。な、だから、今日一日だけ良い子でいるんだぞ」
まるで幼子に言い聞かせるような物言いに、絢は無理に微笑もうとした。だが、到底上手くいったとは言えず、奇妙な泣き笑いの表情になる。
「馬鹿だな。泣くことはねえだろう」
太吉はそう言いながらも懐から手拭いを出して、絢の頬を伝う涙の雫を拭ってやった。
「じゃ、行ってくる」
太吉は昨日仕留めたばかりの兎と鹿を抱えて背を向けた。
―お前さま。行かないで、私を一人にしないで。
絢は溢れそうになる涙を抑えながら、いつまでもその場に立ち尽くしていた。やがて鬱蒼と生い茂る樹々の向こうに太吉の姿が消える。絢はハッと我に返ると、慌てて家の中に飛び込んだ。内側から心張り棒を立てると、くずおれるようにその場に座った。じっとしていてもかえって心細さに叫びそうになるだけなので、太吉の着物の綻びを繕うことに集中して刻を過ごした。
「何だ、そんな泣きそうな顔して。大丈夫だ、できるだけ早く夕方までには帰ってくるから。米もいつもよりは多めに持って帰るつもりだから、これでまたしばらくは町に行かねえで済むだろうよ。な、だから、今日一日だけ良い子でいるんだぞ」
まるで幼子に言い聞かせるような物言いに、絢は無理に微笑もうとした。だが、到底上手くいったとは言えず、奇妙な泣き笑いの表情になる。
「馬鹿だな。泣くことはねえだろう」
太吉はそう言いながらも懐から手拭いを出して、絢の頬を伝う涙の雫を拭ってやった。
「じゃ、行ってくる」
太吉は昨日仕留めたばかりの兎と鹿を抱えて背を向けた。
―お前さま。行かないで、私を一人にしないで。
絢は溢れそうになる涙を抑えながら、いつまでもその場に立ち尽くしていた。やがて鬱蒼と生い茂る樹々の向こうに太吉の姿が消える。絢はハッと我に返ると、慌てて家の中に飛び込んだ。内側から心張り棒を立てると、くずおれるようにその場に座った。じっとしていてもかえって心細さに叫びそうになるだけなので、太吉の着物の綻びを繕うことに集中して刻を過ごした。