花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
絢は竹の皮に包んだ団子を父の前に置いた。
―とと様。どうか安らかに眠って下さい。かか様とは仲良くしていますか、喧嘩なんかはしてないでしょうね。太吉さんは私にとっては勿体ないくらいの旦那さまです。私は幸せだから、安心して下さいね。
絢が心の中で卯平に呼びかけたときのこと、眼を閉じていた絢には背後に忍び寄る黒い影に気付かなかった。
唐突に肩を掴まれ、絢はハッとした。
愕きと恐怖に身を強ばらせ恐る恐る振り向けば、やはり、あの男がいた。
「あ、あなたは」
絢は唇を噛みしめた。
―だから、太吉さんはあれほどここに来てはいけないと言ったのに。
もう大丈夫、あの男は来ないと高をくくった我が身の浅はかさを思い知った瞬間だった。
「掴まえたぞ」
男の整った顔には残忍な笑みが浮かんでいた。まるで捕らえた獲物を眺めるような酷薄そうな瞳。
絢は首を振った。
―いや、こんな男は絶対にいや。
思いやりや情のかけらも感じさせない冷たい貌は、端整ではあっても、血の通った人間のものではなかった。
「椿の姫、逢いたかったぞ」
男が低い声で言う。刹那、絢は身を翻して逃げ出した。
「助けて、誰か、助けて」
逃げる絢の数歩後ろで男が背に負うた矢筒からおもむろに一本の矢を取り出した。その矢をつがえ、弓を引き絞る。狙いを定める先には―。
―とと様。どうか安らかに眠って下さい。かか様とは仲良くしていますか、喧嘩なんかはしてないでしょうね。太吉さんは私にとっては勿体ないくらいの旦那さまです。私は幸せだから、安心して下さいね。
絢が心の中で卯平に呼びかけたときのこと、眼を閉じていた絢には背後に忍び寄る黒い影に気付かなかった。
唐突に肩を掴まれ、絢はハッとした。
愕きと恐怖に身を強ばらせ恐る恐る振り向けば、やはり、あの男がいた。
「あ、あなたは」
絢は唇を噛みしめた。
―だから、太吉さんはあれほどここに来てはいけないと言ったのに。
もう大丈夫、あの男は来ないと高をくくった我が身の浅はかさを思い知った瞬間だった。
「掴まえたぞ」
男の整った顔には残忍な笑みが浮かんでいた。まるで捕らえた獲物を眺めるような酷薄そうな瞳。
絢は首を振った。
―いや、こんな男は絶対にいや。
思いやりや情のかけらも感じさせない冷たい貌は、端整ではあっても、血の通った人間のものではなかった。
「椿の姫、逢いたかったぞ」
男が低い声で言う。刹那、絢は身を翻して逃げ出した。
「助けて、誰か、助けて」
逃げる絢の数歩後ろで男が背に負うた矢筒からおもむろに一本の矢を取り出した。その矢をつがえ、弓を引き絞る。狙いを定める先には―。