花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
一心に走る絢の姿があった。男の動きにはいささかの躊躇いもなかった。男は逃げる女にぴたりと照準を当て、矢は見事なほどの鮮やかさで軌跡を描き、絢の脚を射抜いた。
「―!」
刹那、絢は烈しい衝撃を右脚に感じた。まるで何かに脚を殴打されたような感覚があり、次いで焼けつく痛みが襲った。
絢はそのまま力尽きて倒れた。右脚から溢れ出る鮮血が地を染め上げる。地面に散り敷いた白い花びらが鮮やかな朱の色に染まった。
男が近寄ってきた。馬から下りると、しゃがみ込んで絢を無表情に見つめる。
「この私から逃げられると思うてか」
男はひとり言のように呟いた。
「何故、こんな酷いことを」
倒れ伏した絢は涙に霞む眼で男の冷酷な貌を見上げた。冷たい、まるで一切の感情を押し殺したような貌だ。
「私は狙うた獲物は逃がさぬと言うたであろう」
男は傲岸に言い放つと、絢の右脚に触れた。
「や―」
こんな男にたとえ指一本でも触れられるのはおぞましい。絢は身をよじろうとしたが、右脚に激痛が走り、思わず痛みに声を上げた。
「良い表情をしている。そなたに寝所で早ようにそのような顔をさせてみたいものよ。なかなか、そそられる顔と声だ」
その声には陶然とした響きがあった。
「だが、折角捕らえた獲物に死なれては困る」
男は自らの上物の小袖を引き裂いた。千切った片袖で絢の右脚を固く縛る。これは無用の血を流さず、血を止めるための応急的な処置であった。
男は絢の華奢な身体を軽々と抱き上げた。きつく縛った右脚の布の上から早くも血が滲んでいるのが痛々しい。
「―!」
刹那、絢は烈しい衝撃を右脚に感じた。まるで何かに脚を殴打されたような感覚があり、次いで焼けつく痛みが襲った。
絢はそのまま力尽きて倒れた。右脚から溢れ出る鮮血が地を染め上げる。地面に散り敷いた白い花びらが鮮やかな朱の色に染まった。
男が近寄ってきた。馬から下りると、しゃがみ込んで絢を無表情に見つめる。
「この私から逃げられると思うてか」
男はひとり言のように呟いた。
「何故、こんな酷いことを」
倒れ伏した絢は涙に霞む眼で男の冷酷な貌を見上げた。冷たい、まるで一切の感情を押し殺したような貌だ。
「私は狙うた獲物は逃がさぬと言うたであろう」
男は傲岸に言い放つと、絢の右脚に触れた。
「や―」
こんな男にたとえ指一本でも触れられるのはおぞましい。絢は身をよじろうとしたが、右脚に激痛が走り、思わず痛みに声を上げた。
「良い表情をしている。そなたに寝所で早ようにそのような顔をさせてみたいものよ。なかなか、そそられる顔と声だ」
その声には陶然とした響きがあった。
「だが、折角捕らえた獲物に死なれては困る」
男は自らの上物の小袖を引き裂いた。千切った片袖で絢の右脚を固く縛る。これは無用の血を流さず、血を止めるための応急的な処置であった。
男は絢の華奢な身体を軽々と抱き上げた。きつく縛った右脚の布の上から早くも血が滲んでいるのが痛々しい。