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花鬼(はなおに)~風の墓標~

第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】

「椿の姫―、やっと手に入れた」
 男は絢の髪にそっと触れた。額に乱れた髪がひとすじかかっているのを愛おしげに払ってやる。
―お前さま、助けて!
 絢は抗おうとしても、一向に身体に力が入らなかった。まるで自分が荷物のように横抱きにされ、馬に乗せられるのを恐怖と絶望に苛まれながら耐えているしかなかった。
―お前さま!!
 恋しい良人の笑顔が浮かぶ。心の中で太吉に助けを求めようとしたところで、ふっつりと意識が途切れた。絢の意識は深い深い水底へと沈んでいった。そう、まるで、この男と初めてめぐり逢ったあの泉の底知れぬ深みへと落ちてゆくように。
 男は絢を馬に乗せたまま、いずこへともなく走り去った。蒼い泉はただ何事もなかったかのように静まり返っていた。

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