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花鬼(はなおに)~風の墓標~

第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】

 絢ほどの美貌の女なら、見も知らぬ通りすがりの男が眼を止めたとて不思議はない。だが、そこにどれほどの恋慕の想いがあったとしても、あれほどに嫌がる女を無理に我が物にしようとする男の心が太吉には理解できない。ましてや、人間をあたかも獣のように矢で射るなぞとは同じ人間の所業とは思えなかった。
「鬼だ」
 太吉の心の奥底から静かな怒りの焔が燃え上がっていた。冷酷な男は妻を狩りの獲物のように矢で射かけたのだ。
 絢の話によれば、泉で見かけた男はたいそう美しかったという。そして、この半月間、夜毎に夢に現れ絢を責め苛んだのは、他ならぬその男であった。

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