花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
―美しい鬼が怖ろしい形相をして追いかけてくる。
絢は太吉の胸に縋りついて震えながら訴えたものだった。太吉の瞼に見たこともない男の貌が浮かび上がる。月のかんばせのように麗しい容貌に酷薄な微笑を浮かべている男、その男が絢を冷たいまなざしで見ている。
まるで、絢を蔑むような視線で見つめている。その瞳には優しさどころか、情欲さえない。
―止めてくれ。お前は一体、絢をどうするつもりなんだ。俺の女房を返してくれ。
太吉はその妖しいまでに美しい男に向かって叫ぶ。男が視線をゆるりと動かす。その瞬間、太吉は叫び声を上げそうになった。
感情の読めぬ能面のような静まり返った顔が一瞬にして変じていた。大きく紅い口をカッと開き、二本の牙を両横に見せたその凄まじいまでの表情はまるで悪鬼、般若そのものだ。
「絢が鬼に喰われてちまう」
太吉は震えながら呟いた。こんなことを考える自分も既に狂っているのかもしれない。だが、絢が鬼にこの世から現(うつつ)ならぬ世界へと連れ去られようとしているのなら、太吉もまたその後を追いかけてゆくつもりだった。
太吉は今、絢を連れ去った美しい鬼を心から憎悪した。太吉は絢の血を浴びた矢をギュッと握りしめていた。
絢は太吉の胸に縋りついて震えながら訴えたものだった。太吉の瞼に見たこともない男の貌が浮かび上がる。月のかんばせのように麗しい容貌に酷薄な微笑を浮かべている男、その男が絢を冷たいまなざしで見ている。
まるで、絢を蔑むような視線で見つめている。その瞳には優しさどころか、情欲さえない。
―止めてくれ。お前は一体、絢をどうするつもりなんだ。俺の女房を返してくれ。
太吉はその妖しいまでに美しい男に向かって叫ぶ。男が視線をゆるりと動かす。その瞬間、太吉は叫び声を上げそうになった。
感情の読めぬ能面のような静まり返った顔が一瞬にして変じていた。大きく紅い口をカッと開き、二本の牙を両横に見せたその凄まじいまでの表情はまるで悪鬼、般若そのものだ。
「絢が鬼に喰われてちまう」
太吉は震えながら呟いた。こんなことを考える自分も既に狂っているのかもしれない。だが、絢が鬼にこの世から現(うつつ)ならぬ世界へと連れ去られようとしているのなら、太吉もまたその後を追いかけてゆくつもりだった。
太吉は今、絢を連れ去った美しい鬼を心から憎悪した。太吉は絢の血を浴びた矢をギュッと握りしめていた。