花鬼(はなおに)~風の墓標~
第4章 運命(さだめ)―哀しい別離―
思わず太吉に縋りつこうとするのに、晴信が口の端を歪める。
「そたは既に私の女となったのだ。今更、その男の許に戻ったからとて無益なことではないか」
「俺は絢さえ戻ってきてくれたら良い」
太吉がすかさず言うと、晴信が嗤った。
「のう、下郎。私はこの女を何度も抱いた。そちも知っておるではあろうが、抱き心地の良い身体をしておるの。私は今はこの女に夢中じゃ」
「止めて、止めてえ!」
絢は涙混じりの声で叫んだ。太吉にこんな話を聞かれるなら、死んだ方がマシだった。だが、晴信は憑かれたような表情で閨での絢の乱れようを語ろうとする。
「私に抱かれて声を洩らすまいと懸命に我慢しておるその貌がまた、たまらぬ。真に愛い奴よ」
晴信が冷たい眼で絢を一瞥した。
「下郎、生命が惜しくば、疾くこの場を去るが良い。私は絢が哀しむのは見とうはない。だが、あくまでもそちがこの女を連れてゆくというのならば、そちを斬らねばならぬ」
「絢、こんな奴の言うことなんか聞く必要はねえ。お前は俺と一緒に帰るんだ」
太吉が絢の手を引く。絢は太吉に引っぱられるようにして前へと足を踏み出した。
その一瞬、背後を振り返った時、絢は信じられぬ光景を見た。まるで鬼神のごとくこちらへ駆けてくる晴信は鈍色に光る刃を大きく振り上げていた。
「お前さまッ、いけない」
太吉の前に立ちふさがろうとする絢を晴信が突き飛ばす。弾みで絢のか細い身体は遠方へとはじき飛ばされた。
「そたは既に私の女となったのだ。今更、その男の許に戻ったからとて無益なことではないか」
「俺は絢さえ戻ってきてくれたら良い」
太吉がすかさず言うと、晴信が嗤った。
「のう、下郎。私はこの女を何度も抱いた。そちも知っておるではあろうが、抱き心地の良い身体をしておるの。私は今はこの女に夢中じゃ」
「止めて、止めてえ!」
絢は涙混じりの声で叫んだ。太吉にこんな話を聞かれるなら、死んだ方がマシだった。だが、晴信は憑かれたような表情で閨での絢の乱れようを語ろうとする。
「私に抱かれて声を洩らすまいと懸命に我慢しておるその貌がまた、たまらぬ。真に愛い奴よ」
晴信が冷たい眼で絢を一瞥した。
「下郎、生命が惜しくば、疾くこの場を去るが良い。私は絢が哀しむのは見とうはない。だが、あくまでもそちがこの女を連れてゆくというのならば、そちを斬らねばならぬ」
「絢、こんな奴の言うことなんか聞く必要はねえ。お前は俺と一緒に帰るんだ」
太吉が絢の手を引く。絢は太吉に引っぱられるようにして前へと足を踏み出した。
その一瞬、背後を振り返った時、絢は信じられぬ光景を見た。まるで鬼神のごとくこちらへ駆けてくる晴信は鈍色に光る刃を大きく振り上げていた。
「お前さまッ、いけない」
太吉の前に立ちふさがろうとする絢を晴信が突き飛ばす。弾みで絢のか細い身体は遠方へとはじき飛ばされた。