花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
絢はその子ども―太吉(たきち)が来た日のことを今でもよく憶えている。やせっぽちで手足ばかりがひょろ長くて、まるでもやしのような子どもだった。痩せているせいで眼だけが異様に大きく目立っていて、その眼で絢を睨みつけるように見る。大抵の女の子ならそれだけではや怯んでしまうかもしれなかったが、絢は少しも怖がらなかった。絢は生来勝ち気で、物怖じせぬ子どもだった。
―今日から絢は太吉の姉さまだ。仲良うにしてやれ。
卯平の言葉にも拘わらず、太吉は警戒するようなまなざしで絢を見据え、わずかに後ずさっただけであった。太吉は卯平ともまともに口をきかず、頑なな態度は太吉がこれまでに親からどのような扱いを受けてきたか知れた。
―おいで、一緒に遊ぼう。
絢は太吉に向かって小さな手を差し出した。この子は今日から自分の弟なのだと、絢は自分に言い聞かせた。太吉は絢より一つ年下であったが、栄養状態が悪かったせいか身の丈も小さく到底七つになるようには見えなかった。せいぜいが四、五歳といったところだった。
絢が手を差し伸べても、太吉はしばらくはにらみつけているだけだったが、やがて、おずおずと引っ込めていた手を出した。小さな手と手をつないだ瞬間、絢の心に温かいものが流れ込んできた。自分がこの新しい弟を守るのだと絢はこの時固く心に誓った。
―今日から絢は太吉の姉さまだ。仲良うにしてやれ。
卯平の言葉にも拘わらず、太吉は警戒するようなまなざしで絢を見据え、わずかに後ずさっただけであった。太吉は卯平ともまともに口をきかず、頑なな態度は太吉がこれまでに親からどのような扱いを受けてきたか知れた。
―おいで、一緒に遊ぼう。
絢は太吉に向かって小さな手を差し出した。この子は今日から自分の弟なのだと、絢は自分に言い聞かせた。太吉は絢より一つ年下であったが、栄養状態が悪かったせいか身の丈も小さく到底七つになるようには見えなかった。せいぜいが四、五歳といったところだった。
絢が手を差し伸べても、太吉はしばらくはにらみつけているだけだったが、やがて、おずおずと引っ込めていた手を出した。小さな手と手をつないだ瞬間、絢の心に温かいものが流れ込んできた。自分がこの新しい弟を守るのだと絢はこの時固く心に誓った。