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花鬼(はなおに)~風の墓標~

第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】

 その日を境に絢と太吉の距離はわずかずつ近付いていった。太吉は根は素直な子で、ひとたび心を開いてからは卯平にも絢にも邪気のない笑顔を見せるようになった。卯平と絢、それに太吉と三人の日々は穏やかに流れていった。太吉が十を過ぎるようになった頃、卯平は太吉を連れて猟へ出るようになった。太吉は利発な質で、猟師の仕事も見習いをしている中に憶えていった。獲物があると、太吉は自分たちの食べる分だけ残して村やあるいは少し離れた町にと売りにいった。むろん、太吉は連れてはゆかない。
 太吉は親や家族のことを喋ろうとはしなかった。太吉はただ食べ物を十分に与えられていなかっただけではなく、痩せて垢まみれの身体のあちこちに打たれた跡、つまり青あざができていた。それは太吉が大人から虐待を受けていたという何よりの証拠である。卯平も絢も太吉の哀しい過去には触れない方が良いのだと思っていた。
 村には太吉の両親がいるはずだ。村人はどの家も皆痩せた土地を細々と耕しているような貧しい百姓ばかりだ。自分たちの食い物にも困って、それで太吉を森に置き去りにしたに相違ない。森に捨て置けば、腹を空かせた獣に喰われるか、あるいは自然に餓死するか―要するに厄介払いできる。そんな両親に太吉を二度と逢わせるわけにはゆかなかった。

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