花鬼(はなおに)~風の墓標~
第5章 【花闇(はなやみ)―対決の瞬間(とき)―】
私がいかにして家督を継いだか、そなたは知っておるか」
訊ねられ、絢は小さく頷いた。晴信が武田氏当主となった経緯はあまりにも有名だ。ましてや、領国の民ならば誰もが知ることだろう。
「そうか」
晴信は頷くと、遠い眼になった。
「その話は大方は真のことだ。私は自分の父親をだまし討ちのような形で追放し、武田氏の当主となった。だが、それが真実だというのは大まかな流れにおいて、という意味でのことなのだ」
絢は言葉の意味を計りかねた。思慮深くはあるが、遠回しな物言いを好まず、常に直裁に話す彼には極めて珍しいことだ。
―それが真実だというのは大まかな流れにおいて、という意味でのことなのだ。
絢はその意味を考えようとした。
晴信が淡く微笑った。
「そなたは正直な女だな」
どうやら晴信には絢の思惑なぞお見通しらしい。
訊ねられ、絢は小さく頷いた。晴信が武田氏当主となった経緯はあまりにも有名だ。ましてや、領国の民ならば誰もが知ることだろう。
「そうか」
晴信は頷くと、遠い眼になった。
「その話は大方は真のことだ。私は自分の父親をだまし討ちのような形で追放し、武田氏の当主となった。だが、それが真実だというのは大まかな流れにおいて、という意味でのことなのだ」
絢は言葉の意味を計りかねた。思慮深くはあるが、遠回しな物言いを好まず、常に直裁に話す彼には極めて珍しいことだ。
―それが真実だというのは大まかな流れにおいて、という意味でのことなのだ。
絢はその意味を考えようとした。
晴信が淡く微笑った。
「そなたは正直な女だな」
どうやら晴信には絢の思惑なぞお見通しらしい。