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花鬼(はなおに)~風の墓標~

第5章 【花闇(はなやみ)―対決の瞬間(とき)―】

「絢、最後に一つだけ、私の願いを聞き届けてはくれぬか」
 次に続く晴信の言葉は、絢にとってまたしても予想外のものであった。
 ―あの子守唄を歌ってくれ、と、晴信は絢に頼んだのである。思えば初めて泉のほとりで晴信とめぐり逢った日、絢はこの唄を誰に聞かせるともなしに歌っていた。
 短い沈黙の後、部屋に澄んだ歌声が響いた。

 寝んねこ 寝んねこ 坊やは幾つ
 雨が降ったら、どこに行きましょ
 風が吹いたら、何して遊びましょ
 寝んねこ 寝んねこ 坊やはおやすみ

寝んねこ 寝んねこ 坊やは幾つ
 風の囁きは坊やの子守唄
 雀の囀りは坊やの子守唄
 寝んねこ 寝んねこ 坊やよ おやすみ
 
 晴信は眼を閉じて絢の唄に聞き入った。その表情はあまりにも静かであった。その胸に去来するものが何であったのかは判らない。

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