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花鬼(はなおに)~風の墓標~

第8章 【浮寝鳥(うきねどり)】

 男の背後に控えていた靖政が流石に見かねたように言った。
「お待ち下さりませ。これ以上の折檻を続けては、この者が息絶えてしまいまする」
「かような意気地のない奴を靖政が小者として抱えているとは思うてもみなんだぞ」
「そう仰せになられますな。この者は堀田伝次郎と申しまして、先の戦では敵兵の首を幾つも上げた功の者にござります。我が家来の中でも弓矢を射ることにかけては誰にも引けを取らぬほどの腕前にて、一、二を争うほどの強者にござりました。されど、その戦いで不幸にも右脚を負傷し、思うように機敏な動きができぬ仕儀とあいなり果てました」
 靖政が控えめながら、はきとした口調で言う。その言葉には明らかに若者を労る気遣いが感じられた。そのことに、熊はどこかでホッとしていた。このまま若者が足蹴にされ続けるのを見るのは忍びなかったし、靖政の言うとおり、あまりに仕置きが続けば男の身体がもたないだろう。
「フン、そのような役立たず、さっさと暇を取らせれば良いのだ」
 それまでさんざん働かせておいて、負傷が原因で使い物にならなくなった途端、まるでボロ雑巾か何かを捨てるように暇を取らせろと言う。全く情け容赦もない冷酷な男であった。
 男が若者の顔をいっそう強く蹴り上げた。

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