花鬼(はなおに)~風の墓標~
第3章 【邂逅―めぐり逢いの悲劇―】
卯平はまだ意識が確かな際、若い二人を枕辺に呼んだ。
―太吉、絢のことを頼む。どうか絢を守ってやってくれ。
太吉は苦しい息の下から太吉の手を握りしめた。絢と所帯を持って夫婦となって欲しいと懇願したのだ。太吉は深く頷いた。
―親父さん。絢のことは任せてくれ。必ず、どんなことがあっても俺の生命賭けて俺が絢を守る。
太吉の亡骸は小屋の近くの泉のほとりに葬った。僧侶の読経もなく立ち会うのは太吉と絢の二人だけ、本当に淋しい野辺の送りであった。二人とも卯平が心から愛した息子と娘であった。その愛する子どもたちに見守られての死であれば、卯平は満足であったかもしれない。そう思うことが絢の哀しみを幾ばくかでも慰めてくれた。
太吉は申し分のない良人となった。祝言も挙げず花嫁衣装すら着ることの叶わない身ではあっても、絢は幸せだった。幼い二人の間に芽生えていた感情はいつしか恋と呼べるものに育っていた。たとえ父の遺言とはいえ、二人は心から愛し合う夫婦となった。
太吉は卯平がかつてそうしていたように、毎日森へ猟に出、獲物を仕留めては町に売りに出ていった。ただ一つ卯平と違うのは、太吉はけして村に足を踏み入れようとはしないことだった。
太吉は卯平の教えを守り、絶対に必要以上の獣を狩ろうとはしなかった。卯平はいつも幼い太吉に語っていたのだ。
―太吉、絢のことを頼む。どうか絢を守ってやってくれ。
太吉は苦しい息の下から太吉の手を握りしめた。絢と所帯を持って夫婦となって欲しいと懇願したのだ。太吉は深く頷いた。
―親父さん。絢のことは任せてくれ。必ず、どんなことがあっても俺の生命賭けて俺が絢を守る。
太吉の亡骸は小屋の近くの泉のほとりに葬った。僧侶の読経もなく立ち会うのは太吉と絢の二人だけ、本当に淋しい野辺の送りであった。二人とも卯平が心から愛した息子と娘であった。その愛する子どもたちに見守られての死であれば、卯平は満足であったかもしれない。そう思うことが絢の哀しみを幾ばくかでも慰めてくれた。
太吉は申し分のない良人となった。祝言も挙げず花嫁衣装すら着ることの叶わない身ではあっても、絢は幸せだった。幼い二人の間に芽生えていた感情はいつしか恋と呼べるものに育っていた。たとえ父の遺言とはいえ、二人は心から愛し合う夫婦となった。
太吉は卯平がかつてそうしていたように、毎日森へ猟に出、獲物を仕留めては町に売りに出ていった。ただ一つ卯平と違うのは、太吉はけして村に足を踏み入れようとはしないことだった。
太吉は卯平の教えを守り、絶対に必要以上の獣を狩ろうとはしなかった。卯平はいつも幼い太吉に語っていたのだ。