
花鬼(はなおに)~風の墓標~
第8章 【浮寝鳥(うきねどり)】
「いかにそなたが藤堂高影どのの姫であろうが、この甲斐の国ではお屋形さまのご意思は絶対何人たりとも逆らえぬ。ましてや、そなたは玄武の国より遣わされた人質の身、形式上は藤堂どのの姫じゃが、その実は家臣の娘にすぎぬ。お屋形さま初め、我ら甲斐の者は藤堂どののお血筋ならばともかく家臣の娘風情を送ってよこすとは、たかが小国に随分と見くびられたものよと皆、内心憤っておる」
「そのお言葉はこの私一人ではなく玄武の義父(ちち)をも愚弄なさるるお言葉ではございますまいか? 私だけならばともかく、義父までをそのように悪し様に仰せにならるるのは納得が参りませぬ」
熊は憤怒に震えながらも毅然として言い放った。
熊の様子に、流石に勝子もいささか怯んだようだ。やや口調をやわらげた。
「のう、熊姫、この場はよう考えられよ。そなたが殿の側妾として殿のお側に上がれば、藤堂どのの面目も立ち、殿も少しはご満足なさるというもの。そなたも人質としてひとたび甲斐に参りし上は、玄武と甲斐の両国の橋渡しをする任務をその身に負うてきたことは百も承知であろう。いうなれば、こたびのお屋形さまの思し召しは深いご配慮によるもので、そなたにも玄武の藤堂どのにもけして悪い話ではない。その辺のところをよくよく心得て、お屋形さまのお情けをありがたくお受けするが良い」
それだけ言うと、勝子はすっと立ち上がった。熊は再び手をついて頭を深々と垂れた。
「そのお言葉はこの私一人ではなく玄武の義父(ちち)をも愚弄なさるるお言葉ではございますまいか? 私だけならばともかく、義父までをそのように悪し様に仰せにならるるのは納得が参りませぬ」
熊は憤怒に震えながらも毅然として言い放った。
熊の様子に、流石に勝子もいささか怯んだようだ。やや口調をやわらげた。
「のう、熊姫、この場はよう考えられよ。そなたが殿の側妾として殿のお側に上がれば、藤堂どのの面目も立ち、殿も少しはご満足なさるというもの。そなたも人質としてひとたび甲斐に参りし上は、玄武と甲斐の両国の橋渡しをする任務をその身に負うてきたことは百も承知であろう。いうなれば、こたびのお屋形さまの思し召しは深いご配慮によるもので、そなたにも玄武の藤堂どのにもけして悪い話ではない。その辺のところをよくよく心得て、お屋形さまのお情けをありがたくお受けするが良い」
それだけ言うと、勝子はすっと立ち上がった。熊は再び手をついて頭を深々と垂れた。
