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第2章 最後の柿

男はアパートに帰って、柿を取り出して机に置いた。
独身の男のアパートに飾り気はない。
蛍光灯の明かりで柿はてらされている。

「綺麗だな、本当に最高に美味しそうだ」

男はそう言って柿を褒めると台所から果物ナイフを取り出して皮を剥きはじめた。
シュルシュルと手慣れた手つきで男は皮を剥く。
熟れた果肉が姿を表す。
―ゴクッ。
男は唾を飲み込む。
しっとりと潤いを帯びた果肉は、艶かしく輝きを放っている。
―いよいよ、俺が食うときがきた。
「いただきます」
そう言うと男は柿を掴んで柿を丸かじりにして食べた。
果汁が口に溢れ、こぼれ落ちそうになる。
―ああ、うまい。最高だ。
男は喜びの絶頂で柿をむしゃぶりつくした。
―幸せだ。

柿を堪能した男は満足だった。
しばらく味を反芻した。
しかし皮や種を捨てる頃には、次の柿が欲しくなっていた。
―次の柿を早く味わいたい。
男は次の夜が待ち遠しくなっていた。

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