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短編集

第14章 『越冬ツバメ』

やよいさんは突然いなくなった。

正確な年齢はわからないけれど、70歳は越えていたのだと思う。

「いなくなった」とは、「亡くなった」のとは違う。

…たぶん。

まだ元気だったのだけれど、突然いなくなったのだ。
私に置き手紙をして。

『先に行くわ。店は好きにしていい。じゃあね。』

広告を切って裏をメモにして、丸い鉛筆の走り書き。
それきり帰ってこない。

最初のうちは、私はただ帰りを待っていたのだけれど、そのうち店を開けるようになった。

それから何年経ったろう?

私は店を開けてやよいさんの帰りを待っている。

毎年、つばめは帰ってくるのに、やよいさんはまだ帰ってこない。

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