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短編集

第2章 最後の柿

男はその頃は大胆になっており、高枝切りばさみを担いで盗みに行くようになっていた。
盗みにきているのがバレバレだが、男はこれまで柿の木の持ち主に見つかったことはなかったし、柿さえ手に入れば、どうでも良かった。
柿の木のてっぺんに残された最後の一個を、ハサミを巧みに操作して枝から切り離す。
落ちてきた柿を逆さに向けた傘で上手くキャッチする。
このやり方は男が工夫を重ねて編み出した技だ。
上手くやらなければ、柿は地面に落ちてぐちゃぐちゃに潰れてしまう。

―最後の一個か…。

感慨深いものがあった。
明日からはもう柿はない。
―味わって食べよう。

男がそんなことを考えながら、柿を見つめていたときだ。

「おとなしくしろっ!」

突然、どこからか現れた数人の男達が柿を持ったまま驚いている男を取り押さえた。

「な、なんですかっ!」

「連続婦女暴行、誘拐、強姦、殺人、死体遺棄の容疑で逮捕する!」

―っ?!

「わ、わたしは柿を…ただ柿を…」

「お前が女性を柿にたとえていることはブログを読んで知っている。言い訳は後で聞いてやる」



こうして男は最後の柿を食べることは出来なかった。

おしまい。

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