短編集
第14章 『越冬ツバメ』
雨がしとしと降っている。
湿気ったにおいがする。
曇った空が、座敷を暗くしている。
ちゃぶ台には、やよいさんの書き置き。
突然、やよいさんはいなくなった。
どうしてだか、考えても、わからない。
探すにも、あてはない。
探すことが、やよいさんにとって、よいことなのか、悪いことなのかすら、わからない。
私は、ただ、お客さんもない店先で、雨が伝うのを、見ていた。
軒先のツバメ達は、巣立ち、いなくなった。
突然、飛び立っていった。
私は、ここで一人になった。
帰るところも、行くところも失って、ここで一人になった。
やよいさんは、いつか、ツバメのように帰って来るだろうか。
―先にいく
とやよいさんは書き残したけれど、私はあとからどこへ行ったらいいのだろう。
やよいさんは、私にどこへ行って欲しいのだろう。
雨が流れていく。
雨は、溝を流れて、川を流れて、そして海に。
いっそ、私も流してくれないだろうか。
私には、ここで、ここに、いるしかない。
いつか、軒下に汚れた娘が訪ねてくるまで。
私は、ここで、時を過ごす。
いつかは、星になれるだろうか。
あの、王子とツバメのように。
幸せに。
すっぴんしゃんと。
おしまい。
湿気ったにおいがする。
曇った空が、座敷を暗くしている。
ちゃぶ台には、やよいさんの書き置き。
突然、やよいさんはいなくなった。
どうしてだか、考えても、わからない。
探すにも、あてはない。
探すことが、やよいさんにとって、よいことなのか、悪いことなのかすら、わからない。
私は、ただ、お客さんもない店先で、雨が伝うのを、見ていた。
軒先のツバメ達は、巣立ち、いなくなった。
突然、飛び立っていった。
私は、ここで一人になった。
帰るところも、行くところも失って、ここで一人になった。
やよいさんは、いつか、ツバメのように帰って来るだろうか。
―先にいく
とやよいさんは書き残したけれど、私はあとからどこへ行ったらいいのだろう。
やよいさんは、私にどこへ行って欲しいのだろう。
雨が流れていく。
雨は、溝を流れて、川を流れて、そして海に。
いっそ、私も流してくれないだろうか。
私には、ここで、ここに、いるしかない。
いつか、軒下に汚れた娘が訪ねてくるまで。
私は、ここで、時を過ごす。
いつかは、星になれるだろうか。
あの、王子とツバメのように。
幸せに。
すっぴんしゃんと。
おしまい。