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第14章 『越冬ツバメ』

私は、やよいさんと、町の城跡に上った。

休みの日に。

晴れて、日差しが柔らかな午後だった。

古びた石垣を横手に見ながら、私達は坂道を上っていった。

竹林が、揺れて、かさかさと音を立てる以外には何もない。

私達はただ頂上の見張らし台を目指した。

20分位は歩いたろうか。

やっと、開けた見張らし台に立った。

町が一望できる。

遠くの山々も見える。

霞がかった青紫の稜線も。

やよい「やれやれ、何年ぶりかしら」

私「結構、急な坂道だねぇ」

やよい「そうねぇ。昔はこの上にお城が建っていたというのだから、大したものよね。」

今は城はない。

空襲の折り、壊されて、鉄や銅を持ち出されてしまった。

緑が揺れる。

新緑だ。

こんな日は、二度と来るだろうか。

毎日は、ただ過ぎ去って、感動に鈍感になるけれど、大切にしなければならないのは、こういった普通の、ただ、普通の幸せなのだ。

町からは時折、何かしら、人々の生活する音が、遠くに聞こえる。

やよい「変わらないね」

それは、この町で生まれ育った人の言葉。

―そうなんだ。

ずっと、この箱庭のような町並みを見続けて、大切にしてきた人の言葉を噛みしめる。

遠くに電車が走っている。

ツバメが、飛んでいく。

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