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短編集

第1章 トイレット

―このまま、静かに耐えれば諦めてくれるかもっ!

男は、自分でも無駄だとわかっていても、そう願わずにいられなかった。

…コンコン、コン!

しかし、願いもむなしく2度目のノック。

―やっぱり!さっきより強めのノック!しかも最後にリズムをつけてるー!?ハイッテマス、カッ!?て感じか?ええ、入ってますとも!いますとも!さっき目が合ったでしょー!?

「はっ、うっ!?」

緊張が高まって腹に力が入ってしまった!

―やばい、出る!うんこでポチャンて音がしたらやばいよー。ヤバいよ、ヤバいよー。…出川かよっ!ってそんなこと考えてる場合じゃないっ!

音をさせては不味い。男は必死で考える。腹筋がひくつく。

―すかしっぺだ!ここはスカすしかないっ!スカパラダイスオーケストラという無音の名曲を奏でるしかないっ!怪物めっ!俺の名指揮ぶりを見よっ!…いや見なくていい!聞け!…いや聞かなくてもいい!ああ、もう、どうでもいい!

すかしっぺは賭けだ。屁だと思って出したら、うんこも出てしまう可能性もある。しかし、男には自信があった。

―スカせば、この個室が濃密な屁臭で満たされ、俺は呼吸困難に陥るかもしれん。しかし、ここは、やるしかない。いくぞ!!

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