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第10章 『祖母の夏』

「祖母の夏」

祖母が死んだ。

夏が好きな人だった。

今年の夏は迎えられなかった。

彼女の夏はもう来ない。


戦争で疎開をした。

故郷を離れ田舎の親戚に預けられた。

戦時中は例え田畑をもっていても食糧は足りなかった。

だから親戚とはいえ、彼女は邪魔者でしかなかった。

学校には疎開をしてきた都会の子が数人いた。

親も一緒ならまだいい。

だが、一人で疎開をしている子供たちは、みんな捨て犬のような顔に見えた。

それぞれに辛く、寂しい生活をしていたのだ。


田舎の子供たちにとって、都会の子は奇異にしか映らなかった。

自分たちにない、都会の匂い。

それは羨望であったが、自分の田舎臭さを自覚させ、妬みとなった。


村では仲間意識は強いが、余所者に対しては、一様に排他的だ。

彼女が暮らした村も同じだった。

直接的に言葉に出さずとも、大人たちの都会の子に対する陰湿な態度や言葉の端々に見える「邪魔者」という意識は、感性が敏感な子供たちには伝わっていた。

そして、子供たちは無邪気で、自分の心に正直で、それは大人達の心を映し出し、ときに悪魔となった。


村の子供たちは、彼女達、都会の子を受け入れなかったのだ。


彼女達は「はずれもん」と呼ばれた。

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