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あなたが消えない

第15章 初出勤日の夜

翔はタバコをくわえながら、車に何かを入れ込んでいた。

裸足のまま、私は翔の元へと階段を降りて行く。

「翔っ!」

翔は、音も立てずに駆け出して来た私に驚いた表情をした。

「翼っ…!?」

それでも翔は、そんな私を抱き締めてくれたのだ。

「おまえ、バカッ…裸足のままで飛び出してくるだなんて」

「だって翔に会いたかったんだもん。会いたくて眠れなくて…」

「ずっと起きて待ってたのか?」

「そうだよ、そうに決まってるじゃん」

私は翔の胸の中で顔を埋めて、何度も頬ずりをした。

愛しい…恋しい…切なくて…抱かれたいと。

翔は私の髪を何度も撫でて、私は翔の身体の弾力と温かさと、その匂いに落ち着いた。

「翼、日が変わった後で悪い。とりあえずアルバイト、お疲れ様。どうだった?頑張れそう?」

「うんうん。翔の言葉を胸に、頑張れたよ。この先も自分らしく頑張れそう。翔、本当に優しい言葉を掛けてくれて、ありがとね」

「そっか。…なら、よかった」

冷たい風が吹くと、翔はギュッと私を強く抱き締めた。

翔、今夜も秘密の時間を過ごしたいよ。

私は翔を見つめる。

「それと、旦那に朝帰りの事、責められなかったか心配してたんだ。大丈夫だった?」

「うん、何も勘ぐられてないから、翔の言う通り心配無用だった」

強気で言っても、翔は私の事を気に掛けてくれていたんだね。

凄く、嬉しい。

私の事を考えていてくれて、嬉しい。

「翼、明日も仕事?」

「もちろん」

「そっか、いよいよ新しい生活が始まるんだな」

翔、欲しいよ。

私は翔に甘えて言う。

「キスして?」

翔はまたギュッと抱き締めて、私をしばらく見つめて、軽く口唇にキスをした。

「翼、もう戻った方がいい」

どうしたの?

いつもの翔らしくない発言。

「いやっ」

私は思わず、翔にしがみつく。

離れたくないの。

一瞬一秒でも翔とは離れたくないの!

「裸足じゃ、すぐ身体が、冷えちゃうだろ」

「翔と一緒なら、そんな事は気にならないよ」

私を何度も、気に掛けてくれるその優しさに、いつもと違う気がして、急に不安が襲った。










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