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あなたが消えない

第15章 初出勤日の夜

「失礼だったら、失礼って言って下さいね、私は歪んだ性格してるから」

独身の子は、自分で自分を失礼だなんて言うから、

「もっと失礼で歪んだ性格の人、知ってますから大丈夫ですよ」

私はまた、翔を思い出して笑う。

「マッジィ~。それナイス」

嬉しそうに無邪気に笑っていた。

翔…。

翔の言う通り、自分らしく初日は頑張れたよ。

強くて優しい言葉を、ありがとう。

初出勤日は無事に終了して、夕方に翔が帰宅するのを、私は部屋で待つ。

17時…18時を過ぎ、19時をまわり、私は何度も床に耳を引っ付けては、下の部屋の物音を聞く。

やっぱり、まだ帰って来ていない。

結局20時、はたまた22時になり、私は痺れを切らして、玄関を飛び出して階段を降り、101号室の玄関前まで行く。

駐車場に車もない。

部屋に灯りもない。

「おい、翼」

その声に振り返る。

「こんな遅くに、どうした?」

自転車を引いた和男が帰宅した。

「あ、あの、いや…」

「寒いから、早く中に入るぞ」

和男と私は、部屋に戻る。

翔…。

今夜もここには、戻らないつもりなの?

今日の話が、したかったのに…。

「翼、今日はどうだったの。初出勤だったんだろ?」

和男が、翔よりも先に私にその話で訪ねてくるのが嫌で、

「うん、まぁまぁ」

曖昧な返事をした。

「何だよ、それ」

「和男、早くご飯食べて」

そして、わざと話を変えた。

さっさと私はお風呂に入り、さっさと後片付けをして、さっさと布団に横たわった。

「今夜はお疲れ様」

やけに優しい言葉を和男に言われても、

「おやすみ」

素っ気なく、見向きもしないで瞳を閉じた。

翔…。

私は瞳を閉じても眠れずにいた。

翔…。

頭の中に、何度も翔の姿が浮かぶから。

深夜2時頃だろうか、和男のイビキで更に眠れずに居ると、駐車場に車を停める音がして、思わず私はハッと起き上がる。

もしかして?!

私は和男が熟睡しているのを確認して、玄関の扉をコッソリと開けて、下の駐車場を見ると。

やっぱり?!





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