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あなたが消えない

第19章 あなたが消えない

年が明けて、和男は正式に転勤が決まる。

2月の終わりに単身で引っ越しする。

和男は、せっせと準備をしている。

「月に一度は必ず帰るようにするから、寂しかも知れないけど、仕事頑張れよ」

と、私を珍しく心配してくれる。

心配なんてしてくれなくても、いい。

言われなくても、とっくに仕事先の人たちに支えられてる。

「うん」

そんな事よりも、あっという間に翔が姿を消して、1年が経ってしまった。

あれからまだ一度も私の元へと、翔は現れてはくれない。

…私は今でも、こんなにあなたの残した姿を追って生活しているのに。

102号室の奥さんは妊娠したみたいで、仕事を辞めて今は家の中にいる。

年明けに、バッタリ駐車場で会って言っていた。

「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます」

「101号室、どうやら新しい方が今月末に入居されるそうですよ」

「そうなんですか?」

「私、妊娠してもう仕事辞めたんですよ」

「それは、重ね重ねおめでとうございます」

「たまたま家に居たら聞いちゃったんです。独身の男性の方みたいですよ。それが永津さんの紹介みたいな話をしていたので、もしかしたらお知り合いなのかも知れませんね?」

私は両手で口を覆って、思わず信じられないって表情をした。

「それから年末にうちの主人が、この近くの大通りで、永津さんの姿を見掛けたそうです。仕事中だったみたいで、永津さんに軽く会釈されて、かなり驚いてい ましたよ」

「ほ、本当ですかソレ?!」

「えぇ」

奥さんは笑顔で言ってくれた。

翔…、やっぱりこの近くに居るの?

「きっと、この近所に職場があるんじゃないですかね」

「奥さんもそう思いますか?」

「はい。引っ越しても男は、なかなか転職なんて簡単に出来ませんからね。ましてやお子さんも産まれたばかりですし」

確かにそう言われてみれば。私はその言葉に、もの凄く安心した。

奥さんは私の気持ちを、知ってか知らずか穏やかに言ってくれた。

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