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あなたが消えない

第13章 あなたの全てが欲しいのに

夕方、翔が帰ってくる音が部屋の中から聞こえた。

いやらしいけど、床に耳を付けて聞き耳を立てる。

咳払いした。

その声がまた、愛しい。

あの人の歩く音が、私の胸のドキドキの音と重なる。

翔はベランダの戸を開けて、空き瓶や空き缶の音を、まるでわざと立てているように思えた。

「行くぞ」

って感じで。

私もベランダの窓を開けて、下を覗き込む。

タバコを加えた翔はチラリと、上を見上げた。

視線が合う。

翔は玄関の方に、指を差して合図をした。

そして私は嬉しそうに、資源ゴミを両手に抱えて、駆け出した。

階段を降りて、翔も部屋から偶然みたいに出て来るの。

「これは、遠山さん。そんなに抱えて、今から資源ゴミを捨てに行かれるんですか?」

「はい」

「僕も車で捨てに行くんですけど、一緒にどうですか?」

えっ?

「はい」

ってか、マジに多いみたいで車に詰め込んでいた。

「いつも遠山さん一人で捨てに行ってるようだけど、旦那さん今夜、帰り遅いの?」

「えぇ、まぁ、そうですね。今夜もメールしたら、会社の飲み会らしくて。23時頃になるって」

「帰りが?さすがサラリーマンですね、お付き合いが大変だ」

「そうみたい」

翔は車に処分するものを詰め込みながら、わざとらしく演技をする。

「今はそうだなぁ…」

翔は腕時計を確認して、

「まだ17時前ですよね?一人で待ちぼうけは寂しいだろうに」

「そんな事は、今はないです」

だって、翔が下に居てくれるから。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

私と翔は車に乗り込むと、翔は私に言った。

「今からホテル行くから」

「えぇっ!?」

本気なの?
やだ、私はシャワーも何も浴びてない!

「4、5時間も有れば余裕で2、3回くらいは出来るでしょ?」

「どれだけ発情してんのよ!変態!!」

翔は私の手を握って、

「翼がでしょ?」

「…何も言えない」

「素直でよろしい」

翔は嬉しそうに、私をからかった。

だって、本当に私は翔を見るだけで、翔の声を聞くだけで、翔が欲しくなるんだもの。

変態は私も同じ。

翔と私の心は繋がっているように、いつも一つなのだ。

いつも同罪なのだ。

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