テキストサイズ

あなたが消えない

第15章 初出勤日の夜

親切に店内や使用する場所などを案内されて、一通り作業内容の説明を受けて、自己紹介をした。

簡単な軽作業を教えてもらいながら働くと、時間はすぐに過ぎる。

だから、働くのが私は嫌いじゃない。

無駄に時間を過ごしていない感じがするから。

60代のオバサンが私に声を掛ける。

「今はね、働かなきゃいかん。女だからって家の事ばっかりやって、家の中に居るだけじゃいかんのよ」

「ですよね、アハハ」

強気な発言に、私は本当に心強かった。

独身の女の子も言う。

「新婚なんですか?私は何か結婚願望、全く無くって。そんなにイイモンなんですかね、それ」

その投げやりな言い方が、とても新鮮に感じた。

「まぁ、一応は新婚の部類ですけど。やっぱり独身が一番幸せですよ。だって何もかも自由だから」

だって、本当にそうなんだもの。

「あぁ、よかった。じゃあ、私は今の自分が正解な訳だ、アハハ」

そうだよ、今の身軽な生活が一番幸せに決まってる。

「子どもは?」

「いません。造る気もないんですよ。私も結婚願望ないのと同じで、子ども全く欲しくないんです」

私は翔との約束を思い出して、キッパリと答えるとオバサンは、

「そんなもんは、いつでもいいんだよ。これから働くんだからぁ」

私に期待して言ってくれる。

独身の子も、

「子どもなんか産んだら、不便な事が多くなるから、私は絶対子どもは要らない派だよ。遠山さんのそれ、正解だわ。アハハ」

「大きな声で言ったらいかんよ。でも金は稼がなね。旦那だけには頼ったらいかん。俺の給料で生活云々言われたら悔しいから」

オバサンが言い返す。

「そうですってば、その通り。アハハ」

「ゲッ、そんなだから結婚って地獄ぅ~。旦那は邪魔臭いわ、子どもで人生縛られたくないわ~」

その会話に、私は笑い飛ばした。

初日から、楽しかった。

たぶんこの辛口な二人で、私はこの職場でうまくやっていけるんじゃないかな、と直感した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ