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紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

     二

 その翌朝。
 美耶子がいつもよりやや遅く起き出してくると、女房が洗面の用意を整えて持ってきた。
 丁寧に顔を洗った後、後ろに回った女房が髪を梳(くしけず)る。黒い豊かな髪は滝のように背中を流れ落ちて畳にまでひろがっている。ひと房ひと房を丹念に梳ってゆく。正面に据えられた鏡の中の美耶子の眼は泣き腫らして赤くなっていた。
 その様を女房に見られるのは恥ずかしかったけれど、この若い女房は兼家の従者康光の妻であり、兼家の人となりについてもよく知っている。兼家の新しい愛人町小路の女についても康光から仕入れた情報だから、今更この女房に隠し立てをする必要もない。

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