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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 暑い、そよとも風のない真夏の夕暮れ、蝉の声が哀しげに響いていた。治助は二十三になっていた。
 治助の一周忌の法要を済ませた後、小文は洛外の小さな町に移り住んだ。都には治助の想い出があまりにも多すぎる。小文は治助と三年余りの短い結婚生活を過ごした都を離れ、新しい「ゆめや」を開いた。「ゆめや」は治助と二人で築き上げた大切な店だ。ついに治助の子を生むことが叶わなかった小文にとっては我が子も同然であり、亡き良人との間の大切な、何ものにも代えがたい想い出であった。
 小文は治助が遺した「ゆめや」を大切に守り抜いてゆこうと決めた。治助が守ってくれているのか、「ゆめや」はこの町でも結構繁盛している。

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