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紅蓮の月~ゆめや~

第4章 紅蓮の月 エピローグ

 カチコチと刻をきざむ柱時計、狭い店内に所狭しと置かれた眼にも鮮やかな着物の数々、何もかもが夢を見る前のままだ。
 そう、実幸は夢を見た。とても切ない夢だった。夢の中で、実幸は戦国乱世に生きた帰蝶という少女になっていた。帰蝶はあの有名な戦国武将織田信長の妻で、敵方の斉藤道三の娘として父からひそかに信長暗殺の任を帯びて織田家に嫁してきた。
 実幸の生きる現代ならば、兄弟や夫婦、親子が互いに殺し合うことなんて、考えられない。でも、帰蝶の生きた時代は考え方がまるで違っていた。むしろ、たとえ夫婦であれ親子であれ、ひとたび利害関係が生ずれば、殺され殺して当たり前の風潮があった。
 帰蝶はそんな殺伐とした時代に生まれ育ったのだ。実幸ならば、自分の愛する人や大切な人を殺すことなんて、できない。もし、どうしても殺せと言われれば、相手を殺す前に自分が死ぬ道を選ぶだろう。

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