テキストサイズ

紅蓮の月~ゆめや~

第4章 紅蓮の月 エピローグ

 四年間付き合った彼氏にフラレたのも、随分と昔のことのように思える。実際にはまだ一時間ほどしか経っていないのだけれど。
 実幸は自分が着ていた小袖を脱ぐと、丁寧に畳んで、女主人に返した。
 帰蝶が好んでよく着ていた小袖、信長も美しいと誉めてくれた―。この小袖は帰蝶の幸せな想いを憶えている。だから、実幸に束の間の「夢」を見せた。
 実幸はガラス戸を開けた。女主人に頭を下げて出ていこうとしたその時、背後で鈴を転がすような声が聞こえた。
「日々の暮らしに倦んだら、また、ここにおいでなさいませ。この店はいつでも、どなたでも来ようと思ったときにその方の眼に止まります。その方が望めば、扉はいつでも開かれるのです。―ここは『ゆめや』でございますから」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ