真っ赤な家庭
第5章 松本 圍
口を拭きながら霊安室の扉を開けた。
静まりかえった室内の真ん中に漂白されたかのように真っ白な布を掛けられた一体の遺体がある。
「す…すまない。
許してくれ…」
布を捲らず、握りしめた手の上にボタボタと水が落ちてきた。
悔しさと自己嫌悪でいっぱいになっていたが、林さんはもう戻らない。
でも止まらなかった。
気が付くと被さっていた布がグシャグシャにシワだらけになっていた。
随分長めに被されていたせいか、姿は全く見えなかった。
見たくないが、見なくてはいけない。
これが本当の別れなんだ。