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なんでやめちゃうの?
第1章 始めで終わり
ある夜のこと。私は寝苦しかったが、深夜やっと眠りについた。そして奇妙な夢をみた。
暗闇のなか、巨大な男の手だけがうっすら浮かんでいた。ゆったりと人差し指が動いたり、二本、三本と同時に動いたりしている。まるで西洋人が手招きしている仕種である。
「…なんでやめちゃうの…」
女性の悲しそうな、請うような声。聞き覚えはあるのだが、誰の声か思い出せない。怖いというよりは、何となく心が静まる響きがあった。
明くる日、朝早く電話が鳴った。学生の頃の友人であった。私はその報告に言葉を失うことになる。同じく学生時代に付き合っていた女性が、分娩がうまくいかず亡くなったという。
それを聞いた後に私は思い当たった。あの声の主を。あれは夜の伽において、彼女が絶頂に至る直前に、いたずらに私が愛撫をやめると、甘えたねだりであった。
終
暗闇のなか、巨大な男の手だけがうっすら浮かんでいた。ゆったりと人差し指が動いたり、二本、三本と同時に動いたりしている。まるで西洋人が手招きしている仕種である。
「…なんでやめちゃうの…」
女性の悲しそうな、請うような声。聞き覚えはあるのだが、誰の声か思い出せない。怖いというよりは、何となく心が静まる響きがあった。
明くる日、朝早く電話が鳴った。学生の頃の友人であった。私はその報告に言葉を失うことになる。同じく学生時代に付き合っていた女性が、分娩がうまくいかず亡くなったという。
それを聞いた後に私は思い当たった。あの声の主を。あれは夜の伽において、彼女が絶頂に至る直前に、いたずらに私が愛撫をやめると、甘えたねだりであった。
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