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無題

第1章 始まり(前編)

何でこんなことになったんだろう?

郁也は
裸にパンツだけはいた
間抜けな格好で、呆然と
自分の部屋を
見回した。

散らかった自分の服と、
自分なら絶対に選ばないであろう
お洒落な服が
折り重なるようにして
脱ぎ散らかしてある。

昨日は確かに
かなり飲んだ記憶はある。

それも
失恋直後も手伝って
かなり悪酔いしてしまったようで、
友達があきれ果てて
タクシーを呼んだのだが、
渋って乗りたがらないので
居合わせた友人の一人が付き添いで
タクシーに同乗したとこまで
で完全にブラックアウトして
記憶が無い。


「昨日の記憶全然ない?」


いきなり後ろから声をかけられて
身体中
ぶるり
と電撃を食らったように
震えた。

そろりと後ろを振り返ると
寝起き感はあるものの、
無機質な表情の友人
雅樹と目があった。


「ごめん」

「いいけど、まぁ
事故ってあるし。
酒と失恋は怖いよな」


無表情にそれだけ言うと
視線が外れた。

メデューサの呪縛から逃れたように、
小さく息を吐く。

どうやら自分は
息を止めていたらしい。


「とりあえず服着ていい?」

「うん」


緩慢な仕草で
動く姿をぼんやり眺めていて
ゾッとした。

身体中
酷いアザで、
手首なんて
手形が青紫にくっきり残っていた。

布団には
血の後まである。

郁也は自分の横で
緩慢に着替える雅樹に
思わず抱きついていた。

雅樹が
怯えるように
固まったのがわかる。

昨晩もこうやって
固まって自分の暴行に耐えたのかと思うと
泣きそうになった。


「…ごめんッ」

「…」


震える背中
から方向転換させて正面を向かせるが
視線は
斜め下に固定したまま、
眼球だけが小刻みに揺れている。

他のパーツは
時間を止めたかのように固まったままだ。


「…別に、」


何とか
絞り出したような声が
全て物語っているようだった。

雅樹がそのまま
固まってしまったので、
郁也は濡れタオルで
身体を丁寧に拭きつつ、
全身を確認してまわった。

本当にくまなく打ち身のようなアザがめぐり、

特に酷いのは
手首足首で
縛り後がくっきり残っている。

首だって
絞めた後や
血が滲むほどの
歯形が残っていて
痛々しい。

ただ、
全身見ても
布団に滲むほどの出血後は無いので、
やはり下半身へのダメージだろう。

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