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無題

第2章 始まり(後編)

「おはよう…」

「…本当に来たんだな」

「えっ」

「いや、何でもない」


郁也の開口一番
の歯切れの悪い挨拶に
意外そうな表情
は見せたが、
すぐに
普段通りの
無機質な
雰囲気に戻った。

普通だ…

雅樹と
ぽつぽつと
他愛の無い雑談
をしていると
そんな風に思えてきた。

昨日の事は
悪い夢で
現実と夢の境界線
に1日だけ迷いこんでしまったんじゃないか
とか
自分に都合のいい事ばかり浮かんできた。


「どうした?」


いつの間にか
黙り込んだまま
歩行まで止めてしまっていた郁也に
少し前を歩いていた雅樹が
不思議そうに
近寄ってきた。


「…夢、だったのかな…って」

「…だったらよかったな」


雅樹は
不安そうにうつむいている郁也を
覗き込み
掠るような

キスをした。

一瞬
何が起こったか
わからなかった
ので無反応だったが、
事の次第に気づき
郁也は
見開いた目で
ゆっくりと
顔を上げた。

嫌味の無い
整った顔の雅樹が
少し手を伸ばせば
触れられる距離で
不思議そうに
郁也を見つめている。

不思議だった。

驚きはしたけど
嫌では無かったし、
こんな目の前に
男の顔があるのに
引く気にはなれない。

カッチリ
と目が合ったまま
数秒
見つめ合う。

雅樹の瞳からは
何の感情も読み取れないし
表情に変化もなく
いつもの無機質なイメージ
の雅樹がそこにいるだけだった。


「ー…何で?」

「別に、一回も二回も変わらないかと思ったから」


そう言うと
興味を無くしたように
方向転換して
スタスタ
と歩き出した。

意味もわからないまま
雅樹の若干斜め後ろ
をとぼとぼと歩き始めた。

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