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赤い花~情欲の檻の中で~

第1章 序章~砂漠にて~

序章~砂漠にて~

 風が、吹く。唸りを上げて私の傍らを通り抜ける風が周囲の砂を巻き上げ、砂塵は私の前方―はるか彼方までをも無色の世界に染め上げる。
 そう、何もない、ただ虚しさだけがひろがる白い闇の中、私は一人、ここまで歩き続けてきた。そっとしゃがみ込んで、粒子の細やかな砂を掌(たなごころ)に掬い上げてみる。指の間から、零れ落ちる砂。こんな風に私の記憶もすべて指の隙間から落ちて、なくなってしまえば良い。
 いや、私は自分の存在そのものをこの果てしなく続く悠久の砂の海の底に埋めてしまいたいとすら思った。

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