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赤い花~情欲の檻の中で~

第4章 MemoriesⅢ

 仕事もそれなりにやっているし、生まれてこのかた二十八年間、たいして良いこともしてこなかった代わりに、悪いことをした自覚もないのだ。誰かを泣かせてもいないし、憎まれているとも思えない。
 夕方、上がったばかりの雨の名残か、道端の紫陽花の花がしっとりと雨露に濡れていた。梅雨が深まれば、この今はまだ淡くしか色づいていない紫陽花はやがて深い海色に染め上がるに違いない。

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