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それでも、私は生きてきた

第51章 悲しみと期待

1人、車に戻り涙を堪えた。

母がチノを抱えて戻ってきた。
元々太った姿が更に大きくなり、

ギリギリ10キロ無いの。と言う母。

ムスッとした顔で、丸まった尻尾をパタパタさせるチノ。その姿も、どことなく遠く感じた。

チノ。チノ?ちーの。

耳を横に倒しながらも大きな目を動かしてチラっと目を合わせてはそらす。呼び声に合わせて尻尾をバタンバタンと叩きつけるように動かす姿。

チノにも忘れられちゃったかな…。
思わず声に出てしまいながらも、チノから目を離せなかった。

ゆっくり手を近付けてチノの背中を、そぅ…っと撫でてみた。
チラチラと私に目を向けてくれるけど、
目が合うとそらす…。

チノ、おいてってごめんね。怒ってるよね?

母の存在が気になりながらも、
チノには話しかけずにはいられなかった。

チノの事、おいてってごめんね。嫌いになっておいてったんじゃなかったんだよ。ごめんね。チノの事、大好きなんだよ…

言葉に合わせるように尻尾をバタンバタンと叩きつけながらも、耳をピクピクさせながら何度も何度も私の方に目を向けてくれる。

大好きだからね、チノのことずっと大好きだよ、また会えなくなるけど、大好きだからね…

尻尾の叩きつける音が消え、
じーっと私と目を合わせた。

チノに伝わらなくてもいい。チノに忘れられててもいい。再会した時には、絶対に言わなくちゃいけない。と、

長年、心に溜めていた言葉が止まらなかった。
チノ、チノ、チノ…

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