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それでも、私は生きてきた

第57章 電話番号

朝食の後片付けが済み、
テレビをBGMに3人でテーブルを囲んだまま
お茶をすすっていた。

たわいの無い会話。

まだ寒いなぁ
今日は晴れるなぁ


家庭の温もり。そのものが、
もう古びた記憶となり
錆び付いていた記憶を
優しく洗い流すようだった。


合間に叔父が何度も携帯を開いては閉じる。

どうしたのか。と気にはなりつつも、
特に声に出さずに居た。


拓也に朝起きて電話しったんだけど、繋がんねぇんだなぁ。帰って来ねぇなぁ。


いいさ、いいさ。昨日の夜、ゆっくり話はしたから。

内心、
いいさ。なんて、ひとつも思えてなかった。

でも。

叔父をなだめるよりも、
自分自身に言い付けるように

いいさ、いいさ。

と、
何度も言葉にした。



それでも叔父の手先は携帯を手放さず、
開いては閉じる。開いては閉じる。


ユリ、この携帯やぁ、コレ、何に使うんだ?

携帯の画面を覗くと、
機能カテゴリーだった。

叔父に質問されるひとつひとつに、
答えて行く。


俺の電話番号はどうやって見んだ?

ここ開いて、ココに出てる番号だよ。

おお、そうか…。


ユリ、この携帯に登録されてる人の番号は何処にあんだ?

電話帳は、このボタン押すと出てくるよ。



何かが納得しないような表情をしている叔父が
不思議だった。


電話帳を教えてから、
しばらく携帯を眺めている叔父。

気になりつつも、
祖母との会話に相槌を打つ。


なぁユリ、この番号はもうユリの番号じゃないのか?

叔父が差し出す携帯を受け取り、
画面を覗く…。


ユリ
090-○○○○-****


私の昔の番号がそこに残されていた。



この番号ね。実家離れた時に、解約しちゃったんだ。お母さんの名義だから。今は、違う携帯なんだ…。



違うのかぁ…かけてみっかなぁって思った時があってよ。なんだぁ。

そう言って、口を軽く尖らせる叔父の姿が
なんとも愛おしかった。




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