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好きな人がいた

第8章 社会人二年目

変わってしまったこともある。

社会人になって、彼の声を忘れた。
大学時代4年間、一度も会わなくとも忘れなかった彼の声を。
中高時代の思い出ももう朧気だ。
この備忘録を読んで、やっとこんなことあったかなと思うくらいだ。
去年の大掃除で彼と連絡を取っていたガラケーを捨てた。
最後に高二のメールを読んだ。あんなに辛かったあのメールは、もはや理不尽な文句にしか思えなかった。
彼の名字に怯えなくなった。
似た髪型の男性を見ても反射的に振り返らなくなった。
中高の卒業アルバムを正視できるようになった。
私は彼を忘れていく。当たり前のことのように、きっとそのうち顔も思い出せなくなる。

それでも、ずっと彼のことが好きだ。

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