貧乳ヒメと書かない作家
第9章 知らない女
千春はポットから3人分、冷たいお茶をついでテーブルへ置いた。
そこでは松田と桐生が今度の話し合いをしていたのだ。
机にはいくつかの資料が並べられている。
「桐生先生、次からの新連載のことですが…」
千春はその会話を聞きながら、まだおさまりきれていないドキドキを忘れようと、お茶で流し込んだ。
桐生が原稿を読んでって言ったおかげで、松田は読み合わせをしてると思ってくれたらしく、うまいこと勘ぐられることはなかった。
それにしても桐生先生ってば…
下手したら辞めさせられてたんだからね!
「今度は如月先生と共同で、お願いしたいのですが、桐生先生はよろしいですか?」
「ずいぶん急な話しだな」
「なんでも如月先生からの強い希望らしくて、どうしてもお願いしたいということなんです」
松田は気遣うような視線を桐生に送った。
「どうでしょうか…」
「ふぅん…」
桐生には松田があの編集長に必ず了承させるように、釘を刺されている姿が想像出来た。
「如月先生って誰ですか?」
千春は松田に聞いた。知らない名前だった。
松田は驚いて言った。
「知らないのかい?千春さんはあまり漫画は読まないんだっけ?」
「はい、まぁ…」
千春は基本小説しか読まない。
おかしな話しだけど、
漫画を読まないことで恥を感じるなんて
思わなかった…。