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その男にリビングに通される。

1番いい部屋なのか、一人用の部屋にしては広く、ゆったりとした作りになっていてソファーや絨毯などはブランド物の、質の良いものだとすぐにわかった。

しかし、千春が部屋を見渡すが他に誰かいる様子はない。

千春は嫌な予感がした。


その男は、くるっと千春の方に向き直って、ニコッと微笑む。

「初めましてっ！俺が桐生だよ。桐生彰浩！」

ん…？
え
ぇ
え
…お
ぇ
！

ごぼっごほっ！咽せる！

「えぇ！そんな！まさか！
だっだって桐生彰浩っていったら…！」


桐生彰浩。

おとなびた語彙としなやかな描写。分野を問わないその筆は、官能小説では特に名を馳せている。その文章は読むものをその世界へいざない、現実と仮想の境目がわからなくなるほど、という評論家もいる。

なによりそれを引き出しているのは長年の豊富な経験から…

「って作者名鑑に書いてありましたよ…だって若すぎますよ！」

桐生はソファに腰を下ろした。

「なんだそれ。作者名鑑？
そのほうが売れるとかそういうのじゃん？」

だって、
目の前の桐生先生は私が思ってた作家先生とは違って、
身長高いし、
ハキハキしてるし、
なにより…あまり認めなくはないが、かっこいい。

「なんだよ。それより原稿催促しに来たんだろ？」

千春はハッとする。
とりあえず状況を飲み込んでおこう。

そういえば、この人に怒鳴っちゃったような気がするけど…大丈夫かなぁ…。