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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第4章 美香の話④



いくつかの質問のやり取りの後に、医者が画用紙とペンを出してきてアタシの前に置いた。

ここに何でもいいから思い浮かぶ木を描きなさいと医者は言った。

木!

なぜそんなことをしなければいけないんだろうか?

だいたいアタシは絵を描くのが下手だ。これは上手く描けないと問題があるのだろうか?

アタシはどんどん混乱がひどくなってきた。

後ろにいる両親を振り返って見た。

二人ともが無表情な顔と魚みたいな目でアタシを見つめていた。
見るんじゃなかった。
この人たちに救いを求めても仕方ない。アタシはもっと重い気分になった。

アタシはため息をつきたいのを抑えペンを持った。

木…木…木…

アタシは木といえば桜の木くらいしか思い出せなかった。
でも、花が咲いている桜の木を思い出すと、もっと憂鬱になって何も考えられなくなりそうなので、桜の木にたくさん雪が積もっている絵を描いた。
桜の木なんて嫌いだ。
雪の重さで折れちゃえばいいんだ。
アタシは今にも折れそうになっている木を描いた。

それを見た医者がフチのない眼鏡のレンズの奥から突き刺すような目でアタシを見た。
その時にアタシは思った。


この人はアタシの味方ではない。



アタシの混乱はこの医者に対する敵意に変わろうとしていた。

次に医者はいくつかの紙を取り出して、この紙についているインクのシミが何に見えるのかときいてきた。
なんなんだコイツは?
ホントにいったい何がしたいんだ?
アタシをここから帰す気がないんじゃないか?
苛立ちが強くなって頭に血が昇るのを感じて、軽い耳鳴りがしはじめた。

1枚目。
何に見える?

とても楽しい気持ちにはなれずろくな物には見えない。

「コウモリ」

2枚目。

「ナイフ」

3枚目。

「蜘蛛」

4枚目。

「悪魔」


その時アタシの中の頭の電気が落ちた。



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