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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第9章 高校生活①




地域で一番の進学率の高校に入った。

両親は何がそんなに嬉しいのかというくらいのバカな顔で喜んだ。

母は
「良かったね。良かったね。きっともう大丈夫だね」
と泣きながら言った。
いったい何が大丈夫なのか。高校受験に受かることと、アタシの精神的な問題が解決するのとは全く意味が違うのに。

病院には月に一度行った。
カウンセリングを受けにと、薬をもらわなければいけなかった。

アタシは、相変わらず病院に行くのは嫌だった。
アソコに行くと記憶が無くなることがまだ時々起こった。
きっとトンボが・・・・
アタシはあの昆虫のような医者をトンボと呼んでいた。
あのトンボがアタシの中の人たちを無理に呼び出そうとしているからに違いない。
それでもトンボは
「とてもいい方向に向かっているよ」
「まだ完全に安心はできないが、自分でコントロールする力が働いている」
「スイッチになっていた感情の大きな揺れが無くなってきたのは薬のせいだと思う」

と、ただウンウン頷くアタシに少し満足気に言った。

薬はもうほとんど飲んではいなかった。
おかげで以前より自分の意識がはっきりしてきた。
いい方向?ちょっとウケる。アタシは全く何も変わっていないのはアタシ自身が一番わかっていた。

もう少しだ。もう少し頑張ればこの医者も信じさせれるんだ。

病院に行く前にアタシは儀式をおこなっていた。

まだ知らない自分の中の誰か達に・・・・心の中で・・・いや心のずっと奥深くに向かってお願いをした。


「お願いだから協力して!アタシが、アタシたちが生きていくためには、ここをうまくやらなければいけないの!わかるでしょ。みんなの協力が必要なの」

返事はなかったけど、きっと伝わっているのだとアタシは思った。

アタシはアタシだけじゃないけど。

アタシたちはアタシなんだから。



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