
ロイヤル&スレイヴ!
第2章 1.ここが土鈴学園
「もしあなたに何かあったら、どうなるか想像したことありますか?」
「……わり」
「――全部僕にしわ寄せが来るんですよ!?すなわち僕の沽券に関わるんです!
あなたのお父様や理事長に見放されて御覧なさい、僕がこれまで培ってきた努力の甲斐もむなしく、出世コースが一発で塵でしょうが!
この心痛がわかるか馬鹿滝!!」
「ちょっとまて自分の為かよ!?」
「当たり前です」
しれっとした様子に、俺へ対する心配という可愛げなんてものは微塵もなかった。
少しでも反省した俺の時間を返せ、と言いたい。
「ところで、滝が押し倒していた生徒ですが」
「押し倒してねえっつーの!事故だ、じ・こ!」
「過失は明らかに滝の方にあるかと思われますが」
「わかってて人聞きの悪い言い方するか、この眼鏡め」
「見かけない方でしたね」
「あぁ。転入してきたんだってさ。俺らと同じ二年生」
斎宮が手当てしてくれた腕を見る。
ぶつかってきた挙句勝手に怪我した俺を、すごく心配してくれた女の子。
チョコレート色の髪は、肩よりちょっと長めで、すこし内向きの毛先に朝の光がキラキラと光っていた。
俺の不注意で思いっきり衝突したわけだけど、間近で見た彼女は細くて小さくて、なんだかいい匂いがしたのを覚えてる。
髪の色とおんなじ色をした瞳は大きな宝石のようで、目があった瞬間、俺は吸い込まれるかと思った。
いきなりぶつかってきた相手の世話を焼くなんてずいぶんなお人よしだと思ったけど、あの子――斎宮に心配されることはなんだか心地良く感じた。
「……滝?」
いつの間にか口を閉ざした俺を、恭介が訝しげにこちらを見ていた。
「なんでもねぇ」
手当てしてもらった腕に視線を向けると、俺は保健室のある校舎に向かった。
後ろから追いかけてくる恭介は口うるさく、「手当てが終わったら生徒会室ですよ!」とかなんとか言ってる。
わかってるよ。ちゃんとやるっつーの。
放課後に用事もできたことだし。
同じことの繰り返しと飽き飽きしていた新学期初日だったのに、放課後の斎宮との約束を楽しみにしている自分がいた。
